葉山ひなの アート 2020-10-24 こんにちは。アートに関する講座やワークショップ、サロンを企画運営するROOTS LABメンバーであり画家の葉山ひなのです。 今回、ROOTS LABが企画する焚き火と素焼きのワークショップ現場視察のために山梨県小菅村のほうれん坊の森キャンプ場(以下「ほうれん坊」)を訪れました。その時の滞在レポートを寄稿させていただきます。 九月末日、パンパンに膨れたリュックと手提げを抱えて登場した私を見て研究会ROOTS LABの仲間でもある恩師は笑いました。彼の車に乗りこみ人生初のキャンプ場宿泊となるほうれん坊へ向かいます。車はダムを左手に針葉樹の山をゆるゆると進みいつの間にか目的地へ辿り着きました。 同じくROOTS LABメンバーの箱田さんと合流し私たちが宿泊するキャビンへ向かいます。キャビン「杉」の広く新しく清潔な様子に私は内心ほっとしていました。 ほうれん坊にある思わず腰を下ろしたくなるような魅力的な囲炉裏を使いワークショップを試みます。食材と、粘土、ハンモックとアルミホイル。夜の支度を始めました。 しばらくするとほうれん坊スタッフの渡邉さんが大量の薪を持って現れました。カメラが好きで色々な場所を訪れてきたという渡邉さんは、いきいきとした様子で見たことのない小さな道具を取り出しました。 棒と鍵のような形をしたそれを渡邉さんが素早くこすり合わせると切っ先から火花がはじけました。彼はその仕組みを説明しながら私たちの目の前で何度か火花を作ります。それはファイヤースターターという着火道具だそうです。 「ガスが止まったら、どうやって火を起こすのか」ROOTS LABで何度か尋ねられたことがありました。水をろ過する方法、暖房設備なく夜を越す方法。それらを知ろうとすることは自分の身体の使い方と自分の住んでいる土地に目を向けることなのかもしれません。 渡邉さんはその火を起こす道具といくらかの藁を私に貸してくれました。 中秋の名月であったその日は小菅村の子どもたちがお菓子をもらいながら家々を回るそうで、渡邉さんは18時には戻りますと言いカメラを持って出ていきました。 私がファイヤースターターで火をおこすことに成功した頃、あたりは薄暗く森が夜の空気に変わり始めていました。 この焚火場でどのような素焼き作品ができるのでしょうか。箱田さんが用意してくれた赤と白の粘土はひんやりと冷たく、焚火で高まった私の体温と混ざって徐々に手に馴染みました。アロマの受け皿を二つ作り、最後によく分からない置物を作りました。火の明かりを頼りに仕上げた最後のそれは私のお気に入りです。 焚火の途中に皆で月を見に行きました。釣り橋の真ん中から見上げた月にはうっすらと虹の輪がかかり、あたりの空や山が大きく照らされているのが分かりました。足元、橋の裏の谷底は昼間よりも深く感じられ、山は私たちをぐるりと囲んで、まるでここから空へ月が零れ落ちたようだと思いました。 もう一度みんなで焚火を囲むと足元から指先までがあっという間に温まり、普段持ち運んでいる曖昧な不安や、せわしない気持ちが全て眠りについたような静かで穏やかな時間が流れました。 成型した粘土を時間とともに火の中央へ寄せていきます。 すぐ後ろ、杉の木の立ち並ぶ森で鹿が大きく鳴きました。ほうれん坊のこと、ROOTS LABのこと、アート、教育、政治、日本の文化、海外の文化。自然と移ろう話題は私たちそれぞれを映しだし、心地よい一体感の中で私たちはもう一度知り合いました。 翌朝、高温で焼かれた素焼きの作品は爪ではじくと乾いた高い音がしました。引き締まった空気の中で灰はまだ暖かく、その中にあるはずの作品のいくつかは見つかりませんでした。 これら全てのきっかけである、キャンプ場を運営する特定非営利活動法人ほうれんぼうの森 理事長の小島さんはキャンプ場すぐ隣の空き地を自ら開拓し「ここにロバをね、飼いたいんだよね。」と白い髭を撫でながら話されました。 「ただね、あいつら鳴き声が、うるさいんだよなあ。音痴っていうか、馬の鳴き声の調子がずれたようなね。」 以前更地であった空間には子供の遊び場がほぼ完成し、中央の小山をよじ登るとあっ!と声が出るほどの高さから辺りを見渡すことができました。 穏やかな小島さんの強いエネルギーと響き合うように、ROOTS LABとほうれん坊に限らない様々な予感とアイディアが生まれました。 この日は渡邉さんに小菅村の名所 雄滝へ案内してもらいました。ほうれん坊から車で10分程進んだそこは土の冷たいことを連想するような、更に瑞々しい空気に溢れていました。 川に手をつけ、木の葉の重なるのを見上げるうちに自分のエネルギーが流れ始めるのを感じました。私は普段、自分の身体の感覚を絵にしています。感性への刺激をインスピレーションと呼びますが、自然が、それを受け取る能力を開放してくれることを改めて実感しました。 私は箱田さんに、これからは山登りをしますと10回ほど宣言し、帰宅した夜はキャンプの前日以上にドキドキしていて、でも心の中はしっかりと満たされていました。持ち帰った作品をブラシで磨くとキラキラと光り、箱田さんはもともと土に入っている成分が輝くのだと教えてくれました。 ワークショップ概要はこちら Share on Facebook Share on twitter